何が僕らを僕らにしたのか。僕らの地域みらい留学ストーリー ーー 鈴木元太 & 前田陽汰 対談インタビュー【後編】
# 5「留学で出会った面白い人」
ーー 地域みらい留学をしてなかったら出会わなかったな、と思う面白い人を教えてください。
ひなた 同級生の同じ寮に住んでいた友だち、しょう君。彼は高校卒業してから大学に行かなかったんですよね。実家が岩手の山奥で、お父さんが無住化しかけていた戦後の開拓地の集落に移り住んだらしい。水道がなくて、湧き水にホースさして家に水をひいてきてて、風呂も薪で沸かしてる。「最近何やってるの?」って聞いたら、「石畳つくってる」って (笑)
「何してる?」 「暮らしてる」そういうことを普通に言えてしまう友だち。他者に認められる強みをもっていて、かつ自分でもその強みを自覚しているけど、生き急いでない。家が大変そうだから、とりあえず家に帰ろうか、と進路をさくって決めれちゃう決断力とかすごいし、面白い。
彼はデザインがすごいできる人で、常に何か作ってました。竹を切ってきて、傘立てをつくったり、木の板に彫刻をして寮の看板つくったり、布でペインティングアートをして、寮の入り口に飾ってたり。
しょう君がつくった寮の入り口の垂れ幕
しょう君がデザインしたスタジャン
ひなた ある時、学校の寮で節電をめっちゃ頑張って、減った分の電気代を自分らの活動費に当ててくれと交渉しようと企んだことがありました。どうしたら電気代を減らせるかを考えて、デザインで解決しようということになったんですね。各部屋のドアの出入り口に透明な窓みたいなのがあるんです。その裏側に電球の形をした板みたいなものを取り付けて、電気がつけっぱなしだとその電球が浮かびる。電気が消えているとその電球が見えなくなる仕組みを彼がつくってくれたんです。電気がつけっぱなしだったら、電球マークが見えるから、部屋の人がいなくても他の人が「あの部屋つけっぱだ」って分かって消しに行ける。
電球マークが見えていたら、気づいた人が電気を消しに行く
ひなた言葉を使わなくても、デザインで行動って変わるよねって、話していて。「こういう風に寮生の行動を変えたいんだけど、どうしよう?」っていう相談はまず最初に彼のところにもっていく。そしたら、デザインでなんとかしてくれる。そんな友だちでした。
げんた 僕は、下宿をやってた人かな。僕は高校2年生のとき、高校寮ではなくNPO法人が運営する下宿で生活していました。ちょっとした進路の相談をしたり、町の人とご飯を食べたりできる「教育型」下宿で、その運営しているのが瀬下さん。20代後半の、地域おこし協力隊の任期を終えたのち、NPO法人を立ち上げて、下宿を運営している方です。
下宿先に瀬下さんの本棚があって、そこにある本は全部読んでよかったんです。興味のある本を読むと解説してくれて、関連のある本を勧めてくれたりしました。自由に使っていい本棚と、いろいろと教えてもらえる環境があったから関心が広がって、僕はその中でも建築系の本をよく読むようになりました。また、本を通して様々な考え方に触れることで、津和野のまちで起こっていることや、そこで自分が感じたことが、建築などの「学問」につながっていることを知り、大学や学問への関心が強まりました。
身の回りの出来事と学問のつながりを見つけ楽しさを感じる一方で、次第にそこから自分を除外して考えるようになってしまいました。関心がある分野やその重要性を説明することはできても、それをなぜ自分がやりたいのか、そもそも自分はやりたいのかどうかよくわからなかったんです。でも、周囲の大人の方たちは社会や学問と自分の関わり方、自分の在り方をうまく言葉にしていたり、それを探ろうとしているように感じられました。
そういった経験の中で、学問そのものへの関心だけではなく、「それに対して自分がどう在りたいか」ということも含めて考えるようになりました。僕はそれまで自己内省、つまり自分の感情を意識することをあまりしてこなかったし、それをあまり重要に感じていませんでした。そこで「何を感じたか」より、「何を得たか」のほうが大事だと思っていたし、「どう在りたいか」より、「何を残すか」のほうが重要だと思っていました。だから、感情はあまり重要だと感じていなかったんですね。
でも、大人の人たちと話す中で、自分の感情を意識することの大切さに気づかされました。津和野では地域に住んでいる人や、地域おこし協力隊のように外から来ている大人たちと距離が近く、大人と関わる機会が日常に溶け込んでいます。学校だけにとどまらず、地域や大人の人との関わることで、自分がもっと広がっていく経験をしました。今でもまだ自分についてわからないことが多いですが、高校生の時に自己内省の大切さに気付けたことは進路選択をするうえでとても重要だったなと思います。
# 6「特別だった場所」
ーー 地域みらい留学を振り返ってみて、頭に浮かぶ「特別だった場所」はどこですか?
ひなた 特別だった場所か...。僕はもともと釣りしにいってるから、僕にとって特別な場所は海の上だったような気もするんですね。漁師さんに船に乗せてもらって、1日中船の上で魚釣ってた時間は特別だった。その時は、深く物を考えていなくて。釣りしに来てるな、って満たされているだけで、そこで語れるものってあんまりないんですけど。
隠岐に行った理由は釣りがしたかったから
ひなた 釣りをしていると、海のことも覚えてくるんですよ。例えば、船を潮と同じ方向にたてるのにパラシュートアンカーを打つと、ちゃんとまっすぐに船が流れるようになる、とかそういう技術的なことって覚えるんですけど、それはロジックを考えるんじゃなくて、肌でわかっていくこと。スキルみたいなものは、知らずしらずのうちに身についていました。でも、自然相手だから、自分の思い通りに何かがいくとは思ってないんです。海の上にいるときとか、自然を相手にしているときは、そっちに合わせる。自然に合わせなきゃという感覚で釣りもするし、船も出す。
海の上にいる時間は特別だった
ひなた海相手だと仕方ないという言葉が使えるけど、寮の中だとあんまり仕方ないが使えない感じがして。それがどっちもあったからよかったと僕は思っています。もちろん寮の中にも仕方ないことはある。人間が47都道府県、いろんなところから、いろんなバックグランドをもった人が集まって同じ屋根の下で過ごすっていうこと自体、異様な空間ではある。その中で生活しなくちゃいけなくて、それぞれが無秩序の中で地位を求めはじめると動物園みたいになっちゃう。でも動物園みたいになっちゃうと過ごしづらい人もいる。各々志とかをもって島にきていてすごいコンフリクトが起きる場所なんですよね、寮生活って。
その中で自分もやりたいことがあったし、まわりがやりたいこともなんとなく話に聞く。でも好き勝手やったら、縛りをかけられていく。規則ができて停学になったり、寮の規定が増えてきたりして。そういう縛りが増えてきてしまうから、じゃあどうするか考えていく。仕方ないでは済ませられない部分が寮の中にはあって。
左脳を使うか、右脳を使うかみたいな感じで、寮のことを考える脳と、海に向かっているときに使う脳と、両方使う場所が自分にはあったので、特別だった場所って言われたときに、寮も思い浮かぶし、海も思い浮かぶし。どっちかではない。そして、それぞれ性質は違う。海だけだったらもっと野性的になっていたと思う。フィーリングで生きる、みたいな感じになっていただろうし。逆に寮だけだったらロジカルだけのちょっと面白くない感じになってたかもしれない。それがバランスよくあったから、自分にはよかったんだな、と思います。
高校3年間を過ごした寮
げんた高校生のときに活動していたグローカルラボで、まちの人から貸してもらった竹林や畑かな。自分たちで自由にできる場所があったのが大きかったと思います。何もない状態から考えてても全然広がらないし、できると思えることすらないから。でも、畑があったら、とりあえず何植える?みたいな話があるし、収穫できたらどうする?みたいな話がある。じゃあ祭りに出すか、とか。
畑をやってたら、その近くに住んでる人が畑作業の仕方を教えてくれたこともありました。そういう経験がなかったら、まちとの距離は遠いままだったと思うんですけど、そうやって話が広がっていったから、結果的にまちでのつながりができたんだと思います。
グローカルラボは、僕が入学した年にできた地域系部活動で、僕が初代部長になりました。できたばっかりの新しい部活で、先輩もいないし、大会とかもないから目的とかも定まらなくて。部活をどうやって進めていこうかというのは悩みでした。
最初の1年は、みんなのやりたいことを聞き出すことを重視したリーダーシップのとりかたをしてたんですけど、それが難しくて。みんながやりたいことなんてまだ分からないし、なんなら自分もやりたいことなんて分からない。それで2年目は、とりあえず自分は活動をして、他の人を誘うことで、それぞれが自分が関心のあることを見つけたり、課題を見つけたりできる機会があったらいいな、と思って竹林を借りて竹を通した地域活動を始めたんですよね。
高校2年生から始めた竹の活動の様子
学校の文化祭でつくった竹の入場門
げんた そういう意味では、「目的があってやりたいことをやる」ではなくて、まず場があって、そこからいろいろ生まれるというプロジェクトの在り方がいいなと思って。なんか「場」があることが僕にとって大きかったんだなって感じています。多分それが、場づくりへの関心に繋がって、建築に進んだんだと思います。
# 7 「地域みらい留学の強み」
ーー 進路サポート企画「Connecting the dots PJ」を通じて、日常に隠れている地域みらい留学ならではの価値を言葉にする手助けをしたい、とのことでしたが2人が考える地域みらい留学の強みって何だと思いますか?
ひなた 地域みらい留学の強みは人それぞれだと思います。地域みらい留学校だから、と一概には言えないと思うんです。でも、その多くが日常に紛れすぎてて気づかないことが結構ある。例えば、寮生活。寮生活って生活の基盤になっているから、当たり前みたいになってるけど、普通の高校で1つ屋根の下で男40人っていうのは、ありえない。そこでテスト期間みんなで勉強するとか、その中で発生したトラブルをどうやって乗り越えていくのか、とか。それは普通の経験じゃないけど、当たり前になってしまっているから、それを特段アピールするものだとは認識してない。けど、それが評価されたりする。
寮生活では、寮をこうしたいって思っている人もいて、寮はただ住めればいいと思ってる人もいる。寮はただ住めればいいと思ってる人に、お金を払って協力してくれって言ったら、なんとなく成り立ちそうな気がする。会社って結構そうだと思う。「雇ってるんだからね」とか。
でも、その会社でもうまくいかないことがいっぱいあるのに、寮となると、なおさら難しい。何か対価を払っているわけではないのに、相手が協力するメリットを作り出した上で話し合いを進めていかないといけなくて、これってすごく難しいことだと思う。それをやらないといけないというか、やろうと思えばできる環境。そういうことが、日常的に起こっているという体験。
寮での話し合いの様子
台の上で少し手を広げて話しているのがひなたさん
ひなた体験自体を構造として理解するっていうのは、第3者がいないとできないことだと思うんですよね。僕の場合は、それを気づかせてくれる人がいた。寮にいたハウスマスターっていう人。そのとき迷っていることを察して、それに的確な答えが書かれている本を渡してくる。話をすると、ひたすら「で?」で返してくる。問いを投げてくる。僕は「こういう寮にしたい」みたいな理想像があって、でもそれをつくる難しさみたいなものを感じていて。「それって、会社だとできるけど、寮だと難しいでしょ」みたいな話をされて、なるほどとなった。寮生活で起こることを構造として理解するのって難しけれど、こうやって噛み砕いて話したら理解できる。その役割を卒業生は担えるんじゃないかと思います。
げんた 地域みらい留学では、生活の中で、実際に働いている人との交流があるから、10年後どうやって生活しようとか、自分がどうなっているんだろう、というのをリアリティをもって考えられるっていうところが、強みかなと思います。
僕がいた津和野には地域おこし隊の人が多くて、大学を卒業してきた人だったり、東京で働いてから来た人だったり、20代半ば~後半くらいの若い層の人と関わることが多くて。話をしてみると、そういう大人の多くがどうやって生きていこうか、ということに真剣に悩んでいました。
そういう大人の姿をみて、自分が悩んでいる「高校卒業後の進路をどうしていこう?」という悩みの延長線上に、大人たちが悩んでいる「将来どう生きていこう?」というのが見えて、自分の悩みが自分だけの悩みだけじゃないと知って安心できたというか。いい悩みをできるようになりました。
僕が長男だからというのもあると思うんですけど。ちょっと上の人がいなかったから、自分ができると思える範囲が限りなく狭かったんですね。小学校のころから、将来仕事あるのかなとかすごい心配してたし、高校生のときも、バイトできるのかな?とか、大学入れるのかな?とかすごい心配してて。そういうことを考えてばっかりで、「できる」ってあんまり思えてなかったんです。
竹の器でカレーライスを食べるイベントを開催
津和野のお祭りで高校の友達とつくった竹のテント
げんた それが津和野に来て、人と話したり、活動をする中でちょっとずつ、「できる」と思える範囲が広がっていきました。町の人との関わることで変わったことの1つが、自分が作り手の立場で考えられるようになった範囲が広がったこと。地域で活動をするまでは、全然作り手としてリアリティをもったことはありませんでした。まちづくりにおいて行政側の人がやっていることなんて、想像もできなかったし、それを自分ができると思ってなかった。でも、まちづくりに関わることで、少しずつ自分ができると思える範囲が広がり、物事と物事との構造的なつながりを把握できるようになったのは、自分の中で大きな変化でした。
その一方で、1、2年先の進路となると、その年代の人と関わる機会がないので、現実味をもって高校卒業後の生活を思い浮かべることができない。だからこそ、僕たちがそこをサポートしていけたらな、と思っています。
記事:もっと地域みらい留学編集部 かんな
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