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【トビタテ!留学JAPAN 船橋力 × 水谷智之】ルールの異なる世界へ飛び込め。 “越境”体験が、変化に対応する力を育む

地域みらい留学」の代表理事を務める水谷智之が、令和時代の“人づくり”について各業界のフロントランナーと意見を交わし合う本企画。今回のお相手は、文部科学省の官民協働海外留学創出プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」のプロジェクトディレクターを務める船橋力さん。地域と国という違いはあれど、どちらの留学も自分のフィールドを飛び出す“越境体験”…ということで、“越境”をテーマに語り合いました。

※本記事は、2019年6月29日の『地域みらい留学フェスタ2019』(東京・渋谷)の事前対談です。当日は村井満氏(Jリーグチェアマン)もお迎えし、同テーマを掘り下げていきます。ご関心のある方は、ぜひご来場ください。(実施時間は、11:45-12:45を予定)

越境や挫折の経験が、人とつながる力の素地になる

水谷:僕らがやっている「地域みらい留学」では、“越境”を一つのキーワードにしているんです。ここでいう“越境”とは、例えば留学とか旅とか転校とか、「自分にとって快適で安心・安全な領域から飛び出し、異質な世界へ踏み込む」という意味合い何ですが、私はこれからの予測不能な時代には、この“越境”を若いうちに体験しておくことが非常に重要だと考えています。

船橋
:なるほど、“越境”ですか。これからは変化に柔軟に対応する力が求められますからね。自分の周囲を見ても、変化を体験してきた数が多い人ほど、言い換えれば数々の“越境”を体験してきた人ほど、環境への順応力が高いと感じます。社内ベンチャー、転職、引っ越し、PTA活動…と文化やコミュニケーションの取り方が異なる環境に身を置く経験、あるいは不条理を受け止めた数が、変化に対応する力を生むのだと考えます。


水谷:船橋さんご自身も、幼い頃から“越境”を経験されてきたと伺いました。

船橋:親の海外赴任のため3歳から小学1年生までアルゼンチンで過ごし、高校時代はブラジルで過ごしました。

水谷
:帰国子女で上智大卒、大手商社勤務、起業…という経歴を見ると、いわゆるエリートに見えますが、挫折したことはあったのでしょうか? 

船橋:むしろ挫折体験の方が多いかもしれません。幼少期から振り返ると、アルゼンチンでは毎日泣きながら現地の幼稚園に通った記憶がありますし、小学校になじめず、やさぐれて地元のゲームセンターに入り浸っていた時期もありました。高校入学直後に父親のブラジル転勤が決まり、「行くかどうかは自分で決めろ。でも、日本に残る場合は仕送りはしない」と言われて、半強制的についていくことになり…。現地のインターナショナルスクールでは英語での授業についていけなくて、ノイローゼになりました。

水谷
:シビアな体験もされた子ども時代だったのですね。辛い時期をどう乗り越えてきたのですか?

船橋 力
文部科学省・官民協働海外留学創出プロジェクト
トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトディレクター
1970年神奈川県横浜市生まれ。上智大学を卒業後、伊藤忠商事(株)に入社し、ODAプロジェクトなどに携わる。2000年に同社を退社し、(株)ウィル・シードを設立。企業および学校向けの体験型・参加型の教育プログラムを提供する事業を手がける。2009年には世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ2009」に選出される。2012年、NPO法人TABLE FOR TWO International理事に就任。2013年、文部科学省中央教育審議会委員に任命され、同年11月より現職。


船橋:ずっと野球をやっていたので、それは大きかったですね。ブラジルでも「あいつは野球ができる」ということでリスペクト&アクセプトされて、生徒会長も務めました。もともとは決して社交的なタイプではなかったのですが、引越しが多かったりマイノリティ体験をしたりすることで、人をよく見るようになって、人と関係性を作るのがうまくなったというのはあると思います。

水谷:なるほど。民間で活躍されていた船橋さんが、「トビタテ!留学JAPAN」に参画することを決めたのはなぜですか? これも、一つの“越境”ですよね。

船橋:商社では自分としては思うような活躍はできなかったし、起業した会社も組織マネジメントができなかった。決して成功体験ばかりじゃないんですよ。教育に携わることがしたいと思っていたけど、民間でできることの限界も感じていた。そこにトビタテの話が来たので、官民挙げてのここまでのプロジェクトは10年、下手したら20年に1回しかないんじゃないか、これは教育を変える大きなチャンスだと思って、つかみにいきました。新しいものやことを知りたい、やりたいという好奇心が旺盛なんでしょうね。“越境”に向いているのかもしれません(笑)

多様な価値観に触れることで生まれる“違和感”を大切に

水谷 智之
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事  
1988年慶応義塾大学卒。(株)リクルート入社後、一貫して人材ビジネス領域に携わり、「リクナビNEXT」などを立ち上げる。グループ各社の代表取締役、取締役を歴任し、2012年には(株)リクルートキャリア初代代表取締役社長に就任。2016年に退任後は、社会人大学院大学「至善館」理事兼特任教授、経済産業省「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」委員、「『未来の教室』とEdTech研究会」委員、内閣官房「教育再生実行会議」委員などを務める。2017年より現職で地域みらい留学を推進。

水谷:私もキャリア業界から教育業界へ、東京から島根へと“越境”した身ですが、新しい世界に一歩足を踏み出すときって、逃げ出したくなったり自分の安全地帯へ戻りたくなったりしながらも、何が起こるのかわからないワクワク感がすごく強い。越えてみて初めて気づくこともたくさんあると実感しています。

船橋:本当にそうだと思います。“越境”しないと気づかないものの一つが、“違和感”です。幼い頃から“越境”生活を送ってきた僕から日本を見ると、違和感だらけです。例えば、日本人の多くはよくわからない同調圧力の中で無意識に“みんな”に合わせて、同じ色に染まっている。受験や大学生の就活なんて、それを端的に表していますよね。トビタテの留学生には、当たり前だと思っていたことに対する違和感を、肌で感じてほしいと思っています。

水谷:日本の中でも、都会と田舎とでは価値観がまったく異なります。「地域みらい留学」でも、自分が生まれ育った環境、価値観、関わってきた人たちとは異なるものと出会うことの意義はとても大きい。“当たり前”が“当たり前”じゃないんだと気づくわけですからね。海外留学により“越境”を経験した生徒や学生は、どんな変化を見せるのでしょうか? 具体的なエピソードがあればお聞かせください。


船橋:ある理系の学生は、留学直前に父親を亡くしたのですが、母親から夢をあきらめるなと背中を押されて、アメリカの大学に留学しました。ところが、入る予定だった研究室に入れないと言われてしまったんです。そこで彼は、毎晩夜中まで図書館に通い詰めて論文を100本読み、自分で論文を書いて直談判。研究室に入れてもらうことができました。それからは研究に打ち込み、後にシリコンバレーのベンチャー企業でインターンも経験し、現在はソニーで活躍しています。帰国後に彼に会ったときには、醸し出すオーラが留学前とまったく違っていて、驚きましたね。留学を機に大きく成長する生徒や学生は少なくありません。

水谷:オーラが変わるほどの体験って、慣れ親しんだ環境で学生生活を送っているだけでは、なかなかできないですよね。

船橋:一方で、留学の価値を後から実感するという子もいます。留学しているときは、思うようにいかないことが多くてあまりいい思い出や価値ある経験として残らなくても、数年後に振り返ったときに、行ってよかったと思えることも多い。これは留学に限らずどんなことでもですが、一見ネガティブに思える経験でも、長期的に見れば成功ということはあると思います。

水谷自分の意志で決めて挑戦したことであれば、どんな経験も人生においては決してマイナスにはならないと思います。留学計画は事前にかっちりと決めさせるのですか?

船橋:行き先と目的、プランを出させています。もちろん、実際には計画通りにいかないこともあるし、だからこそおもしろいものだと思うので、留学生には「7割は計画で出したこと、3割はやったことのないことややりたくないこと、そこでしかできないことをやれ」と言っています。


水谷:あえて自分の興味・関心のフィールドを越えろということですね。おもしろい。具体的には、どんな視点を持つように伝えているのですか?

船橋:“深み”と“広がり”です。深みは、自分が興味のあること。家族観、恋愛観、文化などなんでもいいので、いろんな国の人に同じテーマで話を聞いてみようと。一方、広がりの方は、たくさんの人・こと・場所に触れようと。その3割を通して、多様な価値観と出会ってほしいのです。

水谷:多様性を肌で感じるというのは、地域や国を越えて留学することの最大のメリットだと考えます。「地域みらい留学」でも、同じ日本という国の中でもこんなに違うのかという気づきは、生徒の視野を広げ、考え方を柔軟にすると感じます。ちなみに、どのような基準で選考しているのでしょうか?

船橋:情熱、好奇心、そして独自性ですね。留学に行くか行かないかで言ったら、どこでもいいから絶対にいった方がいい。あと、できれば短期ではなく長期でいってほしいですね。

水谷:期間が長いと、得るものが違いますか?

船橋:得るものが違うというか、短期間だと、せっかくいい体験をしても、就活などを通して元に戻ってしまう。“越境”して多様な価値観に触れることで、既存の慣習や常識に違和感が生まれていても、また同質な日本らしさ、固定概念に染まってしまうんです。

水谷:なるほど。「地域みらい留学」が3年間であることの意義も、そこにあると思っています。お試しではなくその地域に根を下ろすためには、やはり物理的に時間が必要ですから。

自分の成功体験を子どもに押し付けないでほしい

水谷:私自身は地域へも海外へも留学経験はないですが、みんないい経験しているなあとうらやましくなりますね。海外に留学したときに日本のことを肌感覚で知ったうえで語れるようになるためにも、高校時代には日本の地域に留学してローカルに学び、大学時代に海外に留学してグローバルな視点を身につける、そんな学び方ができたらいいなと思い描いています。


船橋:そうですね。海外に行って初めて、自分は日本のことを全然知らなかったのだと痛感する留学生も多いですから。

水谷:船橋さんには、6月29日に開催する「地域みらい留学」のイベントにも登壇していただきます。「地域みらい留学」に興味を持ったお子さんの保護者に向けて、メッセージをお願いします。

船橋:いつも高校生や大学生には「大人(親・先生・マスコミ)を信用するな」と言っているのですが、その裏返しとして、保護者の方には「自分の成功体験を子どもに押し付けないでください」とお伝えしたいですね。何が正解かわからない今の時代は、自分で決めて自分で道を切り拓いていかねばなりません。過去の成功体験は通用しないのです。日本は安心・安全で選択肢が多い国なのに、受験、就職、結婚といった人生において大事な局面では実は選択肢が少ないと思うんです。大学は行った方がいい、大手企業に就職した方がいい、結婚はした方がいい…。本当にそうでしょうか? 親の価値観に染めるのではなく、世の中にあるいろんな価値観に触れる体験をさせることが、子どもの人生を考えたときには大切なのではないでしょうか。そして、その体験の一つとして、「地域みらい留学」はとても魅力的だと感じます。

水谷:ありがとうございました!6月29日の地域みらい留学フェスタでの3人対談も楽しみにしています!

水谷編集後記
対談を通じて、僕の大学時代の一人旅を思い出していました。僕には留学のチャンスがなく、その代わりに20歳のときに飛行機片道チケットだけを握りしめてフィリピンに行った2か月間の一人旅が僕にとっての「一人留学」。その時に感じた新しい世界への不安・恐れ・驚き・挫折。でもそこで出逢った人々の優しさに触れ、強さと弱さを考え、あの一人旅がその後の人生を変えた。一番の原体験になっていることを思い出しました。
今はGoogle先生が何でも教えてくれる時代だし、小学生で町内一人旅・中学生で県内一人旅・高校生で日本一人旅・高校を卒業したら地球一人旅。そんな妄想をしてしまう時間でした。誰か賛同してくれたら「日本ひとり旅部」つくりませんか?

※本記事は、2019年6月29日の『地域みらい留学フェスタ2019』(東京・渋谷)の事前対談です。当日は村井満氏(Jリーグチェアマン)もお迎えし、同テーマを掘り下げていきます。ご関心のある方は、ぜひご来場ください。(実施時間は、11:45-12:45を予定)

【カメラマン:荒川潤、ライター:笹原風花】

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