「高校時代の越境経験が広げる若者の可能性」開催レポート
考える瞬間こそ、思考の幅が広がる
菊池:屈斜路湖(くっしゃろこ)、摩周湖(ましゅうこ)など聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、北海道の弟子屈(てしかが)という山奥に住んでいます。人より鹿の方が多いところで、毎日鹿にぶつからないように、熊に出会わないように暮らしています。
私のモットーは ”No time for hesitation 迷ってる暇なんかない”。 バックパッカーをしている時に、モットーを聞く旅 ”Kikutrip” をしていました。旅の中で出会う人は、はじめましての人ばかり。その人が何を考えているかを知るにはモットーを聞くのが1番良いからです。
菊池:2013年に「タイガーモブ」という会社を立ち上げました。海外インターンシップの事業をメインに展開し、海外実践機会を提供しています。
菊池:「人間は思考の産物にすぎない」大学2年のときに出会った言葉です。私はその言葉を聞いて、「人は思っている通りになる、つまり人は考えている範囲内でしか動けないんじゃないか?」と思いました。
大学生の時、海外インターン、海外留学、バックパッカー、全て経験してみてどれも楽しかったが、大変で辛いけど人生にとって意義があったと感じたのは、”海外インターン” でした。
海外インターンをしていると、なんで自分ってこんなに出来ないんだろう。なんで自分はここにいるんだろうと考えざるを得ない機会がふってくる。「え?」「は?」と考える瞬間こそが、思考の幅を広げている瞬間なのではないかと思い、それなら海外インターンシップは、自分は何者なのかを知る有効な手段なのではないかと考え、海外インターンを提供する会社を立ち上げるに至りました。
なぜ?を問える人間を育てる教育システム
菊池:同じ地域でずっと育っていると、全てが当たり前のように感じてきて、「ここで駅を降りないと...」とか意識せずに、何も考えていなくても家に帰られる状況にあると思います。でもアウェイな空間に行くと、常に脳を活性化させていないといけません。自分って今なんでこう考えるんだ?この人ってなんでこう考えるんだ?と、「なぜ?」を問わざるを得ません。
菊池:どうせ行くなら伸びている国にいってほしいので、新興国。かつ、辛いけど、色々やらせてもらえるベンチャー企業に焦点を絞りながら海外インターンを提供しています。
コロナで海外渡航が全ストップ。海外をメインに仕事をしていたので、大打撃を受けました。そこで、自分たちって何をすべきなんだろう?なんでこの事業をやりたいんだろう?と立ち返ったときに、「次世代リーダーを創出したい」という思いに行き着きました。”この時期でも多くの人に実践機会を提供していこう”ということで、”オンライン” で家から世界最前線へ挑戦できるような海外インターンシップを展開しています。
<オンラインイベントの例>
家にいながら世界中の企業家の話を聞けるイベント
SDGsをテーマに世界中の人の話を聞けるイベント
小・中学生向け実践型プロジェクト
菊池:今までは高校生大学生がメインでしたが、小学生~社会人、シニアまで実践機会を提供しようと思って活動の幅を広げています。
高校生の時代の越境体験がどういう意味があるかというテーマにちなんで、私が皆さんに伝えたいメッセージは「消費ではなく、積み上がる経験を」ということです。「地域みらい留学」でも、「海外インターンシップ」でも、何かをしようとしたら人を巻き込まないといけない、交渉しないといけない。そういう体験の中で、「消費」ではなくて、自分の「経験」がどんどん積み上がっていくと思います。できるだけ早い段階から、「消費ではなく、積み上がる経験を」ということを今日はお話できればと思っています。
1年間の流学生活、日本の島で感じたカルチャーショック
岩本:東京で生まれ育ちました。家から通える最も近い公立の保育園、小学校、中学校、高校へ通いましたが、学校自体があまり好きではありませんでした。自分の人生で初めての越境体験は高1の時。1人で1ヶ月半くらいカナダへ行ってホームステイをしました。15歳の自分にとって、親元を離れて1人で行った初めての海外は衝撃でした。「こんなに世界って楽しいんだ!」と感じ、学校の中で、あいつはどうだ、この子はどうだというのは、すごく狭い世界だったと知り、あの閉鎖的な学校の世界はなんだったんだ?というのが最初の衝撃でした。
大学に入ってからやりたいことが無く、このままだとなんとなく生きていってしまうと思いました。そこで休学をして、アジア、アフリカを旅しました。海外で ”何を学びたいか”というのも分からない状態だったので、とりあえず色んな経験をして自分の世界を広げたいと思い、1つの所に留まるのではなく、色々なところを回ろうと思いました。行った先々で、普通の旅行者では楽しくないと思ったので、活動がしたいと思い、病院で働いたり、ワクチンをもって村を回る活動を一緒にしたりしました。
そうして1年間を過ごす中で、人生が大きく変わりました。圧倒的な幸福度の高さを感じながら、自分のためだけでなく、人類のために何かやりたい!と思って、ネジが外れてしまったのがその1年でした。勉強なんて一つもしなかった1年で人ってこんなに幸せになれるんだ、こんなにエネルギーが出てくるんだということを経験しました。
大学卒業後は、民間企業で人材育成などをしていましたが、会社をやめて、ひょんなことから海士町という2300人の島で高校の改革をするプロジェクトに携わりました。その時、同じ日本なのに、こんなに文化が違うのか!と衝撃を受けました。旅を経験していたので、わりと自分海外でも通用するんじゃないか?という勘違いをしていましたが、海士町での日々は「日本国内でもこんなに通用しないのか!都会と地域でこんなにも違うのか!」というカルチャーショックの連続でした。
それくらいの時期から、「越境」の価値を強く感じるようになりました。越境が必ずしも海外である必要はない、日本の地域って実は面白い、日本の地域にはこんなに面白い学びのフィールドがあるのか!と知ってから、高校生向けの越境体験の機会をつくるということで、「地域みらい留学」をしています。
高校生が海外インターンシップ!?
水谷:高校生がタイガーモブで海外インターンをしているというのには衝撃を受けました。どんな子たちが、どんなことに挑戦しているのか教えて下さい。
菊池:日本のインターンシップは、大学の就活が始まったころに、仕事体験をしていないとやばい!と思って始める人が多いですが、1〜2日で会社の概要を知る研修のようなものが多いと思います。でもそれだけだと、自分が本当に何をしたいのか、自分に合っているのかが分からないと思います。一方、タイガーモブで提供している海外インターンシップは、海外の企業に実際に行って、営業活動、マーケティング、エンジニア、デザインなど、それぞれのスキル、やりたいことをベースに実践をするという形をとっています。
高校生がインターンをする場合は、オンラインで日本からインターンに参加することも可能ですが、実際に海外に行くとなると、学期中は学校を休めないので、春休みや夏休みといった長期休みに1〜2週間現地へ行きます。例えば、ある高校生は働く方々のインタビューをして、自分には何ができるのだろう?と0から1のアイデアをつくり、実践するというインターンをしていました。また、この後登壇していただく宮崎からカンボジアのインターンに参加した高校生は、カンボジアで海外からの輸入をしている会社でインターンをして、日本食をどうカンボジアに広めるのかを考えてサイトをつくったり、営業先の開拓をしています。
水谷:高校生が海外につながって、授業ではなく、実際のプロジェクトに参加するというのは想像を超えています。高校生がそういったプロジェクトに参加するとどういう風に変わっていくのでしょうか?
菊池:好きや自分の興味関心を追求しているので、楽しそうです。でも実際どう?と聞くと、自分ってこんなにできないんだ、アイデアが思いつかない、目上の人に意見が言えない、と悩んでいます。ですが、そういった壁をどんどん乗り越えて成長し、自分はこれだ!と思うものを見つけていっている印象を受けます。
水谷:今の自分を抜け出したいけど、 そんなにエネルギーないし、そこまで興味があるわけではないし、そんなに勇気もないんだけど、こんな私でもできることあるんですか?できることがあるとは思えないんですけど...っていう高校生もいると思うのですが、実際のところはどうですか?
菊池:自分が何がやりたいかを分かっている子は簡単です。でも、大学生、社会人を含め、自分が何をやりたいか分からないという人が多いです。それは当たり前。じゃあ、何をしているときに楽しいと思うんだろう?将来どういう人になっていたいんだろう?を聞いて一緒に探していきます。1人で海外に行くのは怖い、不安という方は、団体で参加するプログラムに参加していただくことも可能です。
地域に飛び込む高校生たち
水谷:海外インターンシップと同じく、地域みらい留学でも「地域に興味はあるけど、別にやりたいことがまだあるわけでもないし、地域留学をする子ってやりたいことがあって、探究したい子じゃないとだめなんでしょうか?エネルギーのある子じゃないといけないんですか?」というお話を聞くことが多いのですが、岩本さん、隠岐島前高校を十数年見てきて、どういう子たちが飛び込んできて、どう変わっていったのかというリアルなお話を聞かせていただきたいです。
岩本:多様な子たちが、多様な動機でやっているので、一概にということはないと思うのですが、共通していると感じるのが、どこかで変わりたいと思っている。”今の自分を超えて行きたい” とか、”変化していきたい” という欲求を自覚しているかは別として、どこかで変わりたいと感じているのが共通点としてあるのではないかと思います。
”変わりたい” ”今の自分を超えていきたい” という気持ちがなければ、流れにまかせて行くのだと思いますが、その流れから抜け出るには ”今の自分を超えた何かに出会いたい”という気持ちがないと、なかなか「地域みらい留学」への一歩を踏み出しにくいと思います。なので、「これをやりたい、これを探究したいんだ」という明確なものというよりは、「その欲求の先に何があるかは分からないけれども、変わっていきたい、成長したい、変化したい、今までを超えたい」という気持ちがあるというのが共有していると思います。
「地域みらい留学」をしていると、浮き沈みを何度何度もも味わいます。留学をして最初は、すごい!面白い!と初めてのことだらけで上がるけど、半年くらいすぎるといろんな現実に直面して、こんなはずじゃなかった、苦しいと沈み、また上がり...。今まで自分がいた、なんとなく、目をつぶっても生きていける、自分の安心安全のテリトリーを抜け出して、まだ見ぬ環境に飛び込んでそこで生活をし、学校や地域で学ぶというところで、浮き沈みがあるのが「地域みらい留学」の違いであり、良さであると思います。多分、苦しいことはしたくないですという人は今いる場所にいたほうがいいと思います。超えていくと、必ずと言っていいほど、浮き沈みがあります。でも浮き沈みがあるからこそ、人間としての成長があり、人として太くなっていきます。
これまで「地域みらい留学」を経験した高校生を見ていると、すぐ折れちゃいそうな弱々しい子もしなやかさをもったり、人としての美しさ、自分の道を自分の足で歩いていっている、自分の言葉で語っている確からしさ、たくましさというものを共通して得て行っていると思います。その中でやりたいということを見つけた子もいれば、当然探し中という子もいます。
水谷:私ものこの仕事をしていて、感激した高校生に会います。ある男の子は、ただ釣りがしたくて、中学生の時に1回訪れた海士町で釣りをしたら、都会では釣れないサイズの魚がとれたので、ただそれだけの動機で隠岐島前高校に入った子がいました。やりたいことも何もなかった、どこかで自分が変わりたいという想いはあるけど、そんなに強く自覚していたわけではなかった子です。でも、「地域みらい留学」で寮生活で仲間として過ごしている中で、洗濯機の数が人数分ないから、洗濯が終わると、洗濯機の中に残されていると次の人が洗濯できないという状況がありました。最初は怒ったり、ルールを作ろうと言ってルールをつくったりしていたけど、そういうことじゃないのではないかと思った彼は、ルールや罰則ではなくてこういうことが起こらないようにできないかと考えました。そして、その男子寮は洗濯機の中に洗濯物を忘れると、洗濯物が畳まれて扉の外にそっと置かれるという寮になりました。
私も都会で高校生の親をしているので感じることですが、大きい学校で似たような人が集まっている学校だと、その中で自分の居心地のいい仲間をみつけて、居心地のいい場所で過ごせてしまいます。でも「越境体験」は、自分と違う人のところに入っていく。目的や、やりたいことは見つかっていないけど、勇気をもって自分と違う人たち、自分と違う空気感の人たちの中に飛び込んでいくことで、いろんな学びがあるんだということなのだろうと思います。
越境体験が広げる可能性
水谷:でも、越境体験って別に大学生になってからでも、社会人、大人になってからでもいいじゃんと思ってしまうのですが、小中学生にまで、海外インターンの機会を提供されている理由は何ですか?高校時代15〜18歳の時期に越境体験をするということについて、どのように感じていらっしゃいますか?
菊池:越境体験は早ければ早いほうがいいと思っています。越境すると原体験を得られる。挫折をするし、上がり下がりがある。その原体験があることによって、未来の人生の決断の判断材料になると思います。大学生から越境をするのも遅くはないですが、でも遅いと思います。就職前に自分が何をしたいのか悩む経験をしていなかったら、就職先に悩んでしまいます。でも高校時代に越境体験をしておくと、そこでの経験でどの大学に行くかが変わって、どの大学に行くかが変わると人生は変わると思います。だから、越境体験が早ければ早いほど、色んな原体験がつくられていくので良いのではないかと思います。
「越境学習」という言葉があります。Aという地点からBという地点に行ってAに戻ると、Aって微妙だなと感じてしまいがちです。例えば、海外に行ってから日本に帰ってくると、日本って微妙、ダサいなどと思いがちです。これは、地方から都会に行っても同じだと思います。ですが、「越境学習」の重要な観点として、AからBに行った時に、Aに染まるのではない、Bに染まるのではない、AでもないBでもない新たな自分ができる価値があります。AもBも俯瞰して、ちょっと外見から見れることで、自分の役割ってなんだろうというのを考えられる。それをできるだけ、高校時代にやってほしいと思います。
水谷:なるほど。岩本くんが、世田谷から海外に行き、世田谷が見えてきた。海外から海士町に行ってみたら、あれ?海外よりもっとすごいことがあるじゃん!と思う、そういうことですね。私も前職で、企業の採用面接をする仕事をしていたのですが、気がついたら大学時代の就職活動用につくられた話が面白くなくて、高校時代の話ばっかり聞いていたんですよね。高校時代に体験しているものって、大学時代に意思をもって目的をもってやったことより、素直だし、背骨が太くなるような経験をしています。今思えば、そうやって高校時代に自分の枠を越えようとした体験の話ばかり聞いていたことを思い出しました。
岩本:菊池さんのお話を聞いて、ぜひコラボしたいと思いました。僕自身も、海外経験ですごく人生が変わったので、その価値を紹介したいという思いがある中で、なぜ日本の地域への留学に特化した活動をしているのかというと、主な理由は3つあります。
1つ目は経済性。国内留学の3年間の費用は、公立高校に行くので実質都会で生活しているのとさほど変わらず、海外留学と比べて、少ない負担で参加できます。2つ目は安全性。未成年で海外に行くより、日本の国内のほうが治安の心配が少なく、未成年でも留学ができます。3つ目は言語。ちゃんと言葉が分かるから、相手が言っている事を頭で理解できます。
この3つの点を考えた時に「地域みらい留学」はより多くの人に提供できる機会だと思って活動しています。実際「地域みらい留学」をした子たちが、海外に行くケースはすごく多いです。1回越境の面白さを知ると、もっと行きたい!となっていく。高校生、未成年でも興味・関心のある子たち、やりたい子たちはどんどん海外に飛び出す機会があるよと紹介していけるといいなと思いました。
【インタビュー編】
海外インターン生 & 地域みらい留学卒業生
水谷:その先駆けとなる、実践者をお招きしたいと思います。1人目は宮崎県飯野高校の溝口梓さん。2人目は島留学の経験者であって、今は東京の大学に進学して地域創生を学んでいる山口結衣さんです。
溝口:飯野高校3年生です。今、オンラインでカンボジアの企業での海外インターンをしています。
山口:岡山県出身で、中学を卒業した後、隠岐島前高校に進学しました。理由は、中学校時代の挫折です。中学3年生のちょうど今頃の時期に部活でキャプテンを務めていましたが、最後の試合でエラーをしてしまいました。その経験から、高校進学では自分を知る人たちのいないところへ行きたいと思い、隠岐のキラキラした先輩や先生にあこがれて隠岐島前高校を目指しました。高校の3年間はマイプロジェクトに取り組みました。海士町では小学校の同級生の人数が少ないことから、それぞれが自分の持ち味を見つけにくいではないかということを課題に感じ、その課題を解決するために小学校へ出向いて週1回 授業をさせてもらうということを2年間していました。
水谷:高校生活を送りながら、タイガーモブでの海外インターンを行っているとのことですが、海外インターンをしようと思ったきっかけ、また普段のスケジュールはどのようになっているのか教えて下さい。
溝口:飯野高校には地域探究活動といって、地域の課題を見つけて、課題解決のために探究する活動があります。私は地域探究活動で外国の方と交流したい、地元の活性化をしたいと思い、外国人向けの観光ツアーを企画しました。探究活動としてツアーを企画すると同時に、海外留学をして海外の観光の在り方を学びたいと思い、トビタテ留学JAPANにも申請しました。色々なことを計画してましたが、新型コロナウイルスが流行して全て中止になってしまい、思うようにいかないまま過ごしていました。休校中に学校のほうからタイガーモブさんがされている活動のお話を直接聞く機会があると聞き、参加して話を聞いてみて、その時にやってみたいと思ったのがタイガーモブで海外インターンに参加したきっかけです。もともとの動機として、外国人と交流したいというのと、地元のPRをしたいという思いがあったので、カンボジアの企業である食品卸会社でインターンをしています。3年生で受験も控えていますが、放課後の5~7時、土曜日は1日フルでインターンをしています。
水谷:外国の方と交流したいと思い始めたのはいつ頃で、どんなきっかけだったんですか?
溝口:もともと英語が得意で、テストの点数も高い方でした。私が今住んでいるえびの市は、あまり外国の方が住んでいなくて実践の場がないので、外国の方と交流したい、英語が使ってみたいと思ったのがきっかけです。
水谷:学校での探究学習が色々な高校で始まっていると思います。学校によって異なると思いますが、探究学習の時間として決められている週数時間の中ではできることも限界があって、そこまで深めることができないまま、1年後に成果発表をして終了となってしまう生徒もいると思うのですが、その中でトビタテのプログラムを使って実際に海外に行ってみようとか、タイガーモブに参加して海外インターンをしたいという思いにはどうやってつながっていったんですか?
溝口:外国人向け観光ツアーをしたいと思ったのは、地元に住みながら地域の過疎化が進むのを見ていて、地域に貢献したいという思いが高まったからです。それから、自分が好きな英語を活かして何かできたらなと思ったので、自分でも色々と活動をしてみたいと思うようになりました。
水谷:授業の学校の中でやっていることの限界を超えて、さらにやってみたいって動き出す子ってまわりにどれくらいいますか?
溝口:授業で必須なので、やる気がある子とない子の差はあります。でも、その中でも自分から積極的に活動をしている子の割合は多いと感じます。
水谷:海外の学生用に作られたプログラムに参加するのではなく、その現地の活動に飛び込んで行って、自分が何ができるのかを考えるというのは、人生ですごく大きな体験だと思います。これまで海外インターンを数ヶ月経験してみて、ここが苦しい、ここが超面白い、など感じたことがあれば教えてください。
溝口:英語を話す場は、会社内でのミーティングとLINEなどを使ってコミュニケーションをとる場があります。特に会社内でのミーティングなどで上司の方と話す際は様々な意見がでるので、自分の視野になかったことを聞けてすごく勉強になります。
水谷:英語のコミュニケーションも難しいだろうし、自分が知らないことを知っている人たちとチームを組むのは大変だと思いますが、本当にすごいですね。菊池さん、高校生が海外インターンへ飛び込んで活動している姿を見ていて、皆さんどんな感じなのか教えてください。
菊池:出会う高校生たちって結構みんなすごいです。自分たちの高校時代って、それほど何も考えていませんでした。海外インターンをしている高校生の中には、環境問題を解決したいとか、実践活動をしたいとか、何かしら自分の思いをもって活動している高校生が多いので感動しています。
水谷:部活の最後の試合でエラーをした私を知らない所に身を置きたい、というところから始まった越境体験だったということですが、「地域みらい留学」での3年間はどんな時間だったのか、教えてください。
山口:入学して最初は自分結構いけてるんじゃない?と思っていました。そこから部活をして、プロジェクトにも手をつけて、外から見れば優秀な人でスタートしましたが、2年生に入ってから浮き沈みでいう ”沈み” に入ってきました。高校2年生の時に、プロジェクトをする中でどん底を経験して、這い上がれないまま3年生になってしまいました。でも、3年生になったときに、何かが吹っ切れました。2年生のトラウマの時効がすぎた瞬間に、もう1回頑張ろうと思って上がりはじめたのが3年生でした。
水谷:何に挑戦して何に挫折したんですか?
山口:私が進めていたプロジェクトが、地域の小学校に行って小学生に自分たちで授業をするという内容でした。でもプロジェクトの途中から小学生が自分たちの授業を楽しく聞いてくれなかったり、つまらないという厳しい意見が飛んできました。自分たちは良いことをしていると思っていたのに、小学生にとっては別に必要ないものだったというギャップにショックを受けて、挫折しました。
水谷:もともと自分たちで授業をしようと思って始めた目的は何だったのですか?
山口:その小学校は1学年18人くらいで、少ない人数の中だと人間関係が固定化されてしまって、自分の持ち味があまり発揮されないのではいかという課題感がありました。その課題を解決するために、高校生が授業で小学生と関わることで、高校生が小学生の持ち味を発掘してあげて、小学生に新たな気付きを促すという目的で始めましたが、あまりうまくいきませんでした
最初は1年半を目標にしていたので、途中からはとりあえず終わらせることを目的にして続けていました。でも、自分の中で終わり方にすごくモヤモヤしていました。1度諦めたプロジェクトをまた始めようと思ったきっかけは、私たちの活動を応援してくれた校長先生が別の学校に行ってしまって、お礼や本当の気持ちを言えないまま別れてしまったので、校長先生へ恩返しするために小学生とまた取り組みたいと思って3年生からまた始めました
水谷:1、2年生のときは、高い目的や志をもってやっていた授業。3年生で小学生とやった授業は、1、2年生と何か違いましたか?
山口:3年生の時は、目的はほとんど持たずに、小学生と仲良くなるということを目的にして、授業ではなく昼休みの交流にしました。自分たちが楽しむことが第一ということを1番の目標に掲げていました。
水谷:私も山口さんの3年間の活動の様子を見させてもらっていましたが、最初の頃は、「こういう授業やるんです!こういうことが大事だと思うんです!」と言って仲間をひきつれ、ものすごいエネルギーで小学校に乗り込み、校長先生を説得して授業のコマをとって、すごいなと思っていました。ですが、徐々に子どもたちが離れていって挫折をして、結局子どもたちの心に寄り添っていなくて、自分がやりたいことを押し付けていたということに自分で気がついてしまって、ものすごい元気な山口さんがいつ見ても暗い顔をしていました。そんな辛い時期を経て、3年生になってそれを超えたときに、すごく力の抜けた顔に変わっていて、ブレない芯をもった姿を見て、これぞ越境体験だなと思ったのを覚えています。越境体験って、想像通りにいかないから越境体験なのだな、でも1歩踏み出した人は想像よりはるかに大きいものを得るということの象徴だと感じました。
菊池:今振り返ると、そのめっちゃ暗い、辛かった時期はどうですか?よかったと思いますか?
山口:その辛さがあったからこそ、仲良くなったメンバーもいるし、つながれた関係性もあるので、2度と経験したくはないですが、あってよかったと思います。
菊池:その時があったからこその「今」がありますよね。沈むことって重要ですよね。同じ場所にいると、逃げ場があって、沈まない。アウェイは大事ですね。
水谷:なるほど。逃げ場がないのが、越境体験の1つですね。自分しかいないし、自分と違う人ばっかりだし、自分と違うことばっかだし。
菊池:自分で解決しないと状況が変わらないですよね。
水谷:海外インターンをしてみて、大変だと感じることはありますか?
溝口:大変なことは学校との両立です。でもその分、やりがいであったり、楽しさがあるので、別にそこまで苦というほどではないです。
菊池:現地に行く時とオンラインの違いってそこにあると思います。現地に行くときは、より挫折しやすい。全く言語も通じないし、よく分からないところに1人がいて寂しい思いもする。でも、オンラインだと学校もあるし、家族もいるし、飼ってる犬もとなりにいる中で越境できる。だから、辛いというよりは、より「好き」や「興味関心」を追求する越境体験がオンラインの良さなのかなと思います。
水谷:オンラインだと興味の幅が広がるし、ワクワクできる幅が無限につながっていると。
菊池:カンボジアで貿易って面白いと思ったら、インドの貿易にも挑戦するといったように複数展開できる。どんどん追求できる。
水谷:たしかに、1回カンボジアにいってしまったら、インドはどうなっているんだろうと思っても、行けないですもんね。
菊池:地域みらい留学をしながら次のステップで海外へ、という選択だけでなく、地域みらい留学をしながらオンラインで海外インターンとかしてほしいです。それが出来たら、最強なんじゃないかと思いました。
岩本:溝口さんもまだこれからというところだと思うのですが、やっている中で、自分の中で起きてきている変化ってどういう風に感じますか?また、山口さんも3年間の越境をして、改めてそれって自分にとって何だったのか、どういう変化だったのかというのを教えてほしいです。
溝口:飯野高校に入ってから、地域探究活動とオンライン海外インターンをする中で、自分のしたいことである英語をもっと磨きたいというのと、地域活性化や観光にもっと目を向けてこれから取り組んでいきたいという思いが強まりました。
山口:入学当初より素で話せることが増えたなと思います。前だと原稿をちゃんと準備して、それに当てはめてしっかり頭の中でシミュレーションをする、ということをしていました。今でも前日にシミュレーションはしますが、当日は自分の言葉で話そうと思えるようになったことが、地域みらい留学の3年間を通して得られたことかなと思います。
水谷:越境体験は学校の先生以外の周囲の大人と関わるのが1つの違いだと思うですが、大人とどんな関わりがあって、どんな会話をしましたか?大人から学んだことはありましたか?
溝口:飯野高校があったからこそ、タイガーモブを知りました。でも、やるにあたって相談したのは学校の先生だけで、家族に対しては自分からはあまり相談しませんでした。海外インターンに申請するときに、それまでの事は言わずに面接してくるとだけ伝えました。実際に海外インターンをするとなってからは、両親はびっくりしつつも、やってみたらいいんじゃない?という感じでした。
水谷:親からしたら、子どもだと思っていたり、子どもだと思いたいところもどこかにあって、想像を超えて娘がこういうことをしたいというのが、親の感覚を超えているんでしょうね。
山口:地域みらい留学の前と後の変化としては、最初は大人って何かを指導したり、自分のことを評価する人だと思ってたのですが、プロジェクトの中で大人と一緒に進んでいかないといけないことを経験して、大人は相談してもいい、一緒に取り組んでもいい存在ということを知って、仲間という感情を抱くようになりました。
おわりに
岩本:当たり前かもしれないですが、ことわざってすごいと思いました。「かわいい子には旅をさせよ」「獅子は我が子を千尋の谷に落とす」。強く幸せに生きてほしいと思うからこそ、より大変な思いをするような機会を提供する。でも、自分の子どもなんかを見ながら思うことですが、親が突き落とすというよりも、子どもって自分から落ちていく、超えていっちゃう。そこで、子どもが超えて行こうとすることを止めない、また止めてもさらに超えて行こうとするところを大人が許容できるのか、大人の器みたいなものが試されるのだろうなというのが今日感じたところです。
溝口:高校に入学してから変われたと感じ、1歩踏み出すことの重要性を学べました。たとえ失敗したとしても、そこから学ぶことは多いと思うので、迷っていることがあったら挑戦したほうがいいと思います。
山口:私も実際に地域みらい留学で越境体験をしてみて、受験も自分を超える1つの越境だと感じています。なので、物理的に地域に越境しようとするだけではなく、受験など自分の前にある壁をどんどん超えていってほしいと思うし、自分もそうしていきたいと思います。
菊池:ガンジーの言葉に、「見たいと思う変化にあたな自身がなりなさい」という言葉があります。今日は高校生の時代にフォーカスしてお話をしまいたが、挑戦に年齢は関係ないと思います。子どもも大人もみんな年齢に関わらずどんどん自分たちが好きなこと、興味関心を追求していける時代だと思うので、連続的な原体験をどんどん経験しに行っていただきたいと思います。「見る前に飛べ」という言葉があって、見ちゃうと、この崖やばい...と思ってしまったりするので、見ずに目隠しして飛んでしまったらいいのではないかと思います。
また、北海道に来て思ったのは、大自然ってこんなに豊かなんだ、この自然を何世代も先に1000年先にちゃんと残していきたいなということです。都会では思わなかったのですが、日々の緑の変化や自然の豊かさに触れながら、自分がすべきことが色々見えてきました。親は背中で語れと言いますが、私自身も経営者をしていて、どんどん背中で語りながら自分も周りもみんなで一緒に挑戦していければと思っているので、今日も来てくださった方、何か自分がやりたいと思っていることがあれば、この後すぐにでも一緒にできたらいいなと思っています。
※ 本記事は、2020年8月9日の地域みらい留学LIVE「高校時代の越境経験が広げる若者の可能性」イベントレポートです。
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