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地域みらい留学生の卒業後の選択肢を広げたい。進路サポート企画「Connecting the dots PJ」を進める、卒業生2人の核となる思いとは? ーー 前田陽汰 & 鈴木元太 対談インタビュー【前編】

地域みらい留学で新たな試みが始まった。
卒業生による進路サポート企画「Connecting the dots プロジェクト (以下Connecting the dots PJ) 」だ。

「Connecting the dots PJ」に取り組んでいるのは、2019年に地域みらい留学校を卒業した、ひなたさんとげんたさん。2人が目指しているのは「地域みらい留学生の卒業後の選択肢を広げること」

地域みらい留学は、都道府県の枠を超えて地域の高校に入学し、地域の人や自然に触れ、都心部では味わえない経験を通し、成長や発見ができる3年間の高校留学プログラムだ。

放課後はまちに飛び出して地域活動をしたり、豊かな自然の中で思い切り遊んだり。「あたりまえじゃない」経験を、「あたりまえに」できてしまう地域みらい留学。

非日常が日常に溶け込みすぎているからこそ、地域みらい留学の価値に気がつけないこともある。だからこそ、卒業生という1歩離れた立場から、今まさに地域みらい留学をしている高校生と向き合い、彼らが次のステップへ踏み出せるようにサポートしたい。
そんな思いから始まったの2人の「Connecting the dots PJ」

前編となる本記事では、
「なぜ彼らが 『Connecting the dots PJ』 を始めるに至ったのか。」
「これから、何をしようとしているのか。」
プロジェクトに取り組む2人の核となる思いを紐解いていきます。

# 0「僕ってこんな人。僕のテーマ。」

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前田陽汰 (まえだ・ひなた)
島根県立隠岐島前高校卒業。慶応義塾 総合政策学部 2年。
NPO法人ムラツムギ代表理事。「まちの終活」という概念を謳いながら、地域活性化以外の選択肢をつくる活動を行っている。活性化・存続が全てではなく、生活者の望む暮らしが大切という考えのもと「地域を畳む・看取るという選択肢もあって然るべきではないか?」という問いを持つ大学生。
(写真:NPO法人ムラツムギでのプレゼンの様子)


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鈴木元太 (すずき・げんた)
島根県立津和野高校卒業。東京大学 理科一類 2年。
2つの大学サークルで活動している。UTFR (東京大学フロンティアランナーズ) では、非進学校から東大を目指す学生の支援、UTSummerでは中高生に対話の機会を提供する活動を行っている。対話が生まれる場づくりに興味があり、「住まいやコミュニティの在り方」「人々を支えるための建築って?」を探求する大学生。
(写真:UTFRで石垣島に行ったとき)


# 1「僕たちがやってることは錯覚の是正」

ーー 今、2人はどんなことに取り組んでいるのですか?

げんた 地域みらい留学をしている高校生の進路サポートをする「Connecting the dots PJ」に取り組んでいます。僕たちが目指しているのは「錯覚の是正によって、出口の選択肢が拡張された状態」です。

ひなた 僕らが表現したい錯覚は「何も経験してきていない」という錯覚。地域みらい留学をしている後輩が「何も経験してきていない」というのを聞くけれど、実はいろいろ経験してるじゃん。「『何も経験してきていない』という考えこそ錯覚である」と定義してきました。

げんた錯覚の是正は、地域みらい留学の強みを生かす、言語化するという意味合いをもっています。地域みらい留学の経験を、進路につなげていくサポートをしたいというのが、僕たちの思いです。

錯覚の是正

僕たちが目指すゴールは、錯覚の是正によって
地域みらい留学生の卒業後の選択肢を広げること


ーー「Connecting the dots PJ」を始めたのは、いつ頃ですか?

げんた 大学に入学してすぐ。去年の6月頃だったかな。環境が変わったから、自分たちで地域みらい留学を振り返って、どうだったねという話ができるようになったのが大きかったです。

ひなた 「connecting the dots PJ」には、過去の点と現在の点と未来の点を接続するハブになる、という思いが込められています。


ーー「Connecting the dots PJ」を始めようと思ったきっかけはなんですか?

~ 日常に溶け込みすぎて気づかない、貴重な経験 ~

ひなた げんちゃんがシェアハウスを始めたからおいでと言ってくれて、それがきっかけで地域みらい留学の話をするようになりました。2人で「Connecting the dots PJ」を始めたけど、根本的な動機は僕とげんちゃんで、ちょっとずつ違うところがあります。そこがまた面白いところなのかな、と思っています。

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シェアハウスの様子

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シェアハウスから生まれた「Connecting the dots PJ」

ひなた 僕の場合は大学受験のときに、僕が島で経験してきたことの価値を「第3者」の視点から教えてくれる人がいました。だから「島で経験させてもらっていることが、とてもありがたいことであり、尊いものである」ということをちゃんと自覚できていて、それを受験に活かしたら大学に受かりました。

 高校を卒業してから、後輩に添削を頼まれることがあり、添削していると「 (地域みらい留学で) 普通に生活をしてるだけでも、それってすごい貴重な経験をしているのに、なんでそれを書かないんだ」と感じることが多くありました。 もっと足元にあるじゃん!ってことに気づけていないのがもったいないなって。

 自分が高校生だったときは、ペイフォワードの世界にいたというか。利害関係があるわけじゃなく、いろんなことを教えてもらえる関係性にあったので。今度は卒業生の立場から後輩に何かしら返すという形で、島に関わり続けていきたいという思いから、げんちゃんと「Connecting the dots PJ」を始めました。


~ 自分の意思とは関係ないところに存在する、地域格差、情報格差 ~

げんた 1つ目は、自分が卒業した後に、津和野町との関わり方を考えたかったから。2つ目は、情報格差、地域格差を実感して、それに対して何かできることはないか、と思ったからです。

 格差について考えるようになったのは、大学に入ってから。まわりの大学生と話していると、進学校出身の人がすごく多くて。もちろん、みんなすごい努力してるんだけど、多分彼らと比べて自分は必要のないところでハードルを感じていたと実感しました。高校生活を振り返ると、自分の意思とは関係ないところで格差があったなと感じて。それがいわゆる地方格差や経済的な格差に接続していたんだなと気づいて、ショックを受けました。

 高校生のときは自分のことで精一杯だったけど、「今だったらその時の自分にどんな言葉をかけられるだろう?」「何か自分にできることはないか?」と考えるようになったのが、「Connecting the dots PJ」を始めたきっかけです。そういう意味では、ひなたは個人個人に焦点を当てているけど、僕はもっと広い、大きな文脈に関心がある気がします。


# 2 「錯覚を抱かせるのは、自分か、環境か」

ーー そもそも、「なにも経験してきていない」という錯覚はなぜ生じるのだと思いますか?

~ 錯覚を抱かせるのは「自分」
それならば、差を強みにすればいい ~

ひなた 「錯覚の是正 ( =何も経験してきていないという錯覚を正して、進路の可能性を広げる) 」 っていう言葉で僕とげんちゃんの意識がなんとなくすり合わさったところはあったんですけど、錯覚へのアプローチは僕とげんちゃんでは違うことを考えていると思っています。

 地方の教育格差とは言うけれど、行った先にいわゆる「格差」があるというのは、事前に調べれば分かること。それでも行った、ということは自分の選択でそこに行っているわけです。行った先で「格差があるじゃん」って言ってても現実は変わらない。でも捉え方によっては、格差があるということは、差があるということだから、そこにレバレッジを効かせることができる、というのが僕の考えです。

「格差があるから自分は機会が少ない」と言うのではなくて、「そこだからできることもある。そこでしかできないことがあるんだから、それを強みにすればいいじゃん」と言いたい。だから、格差を是正するために僕らが入ってあげるというよりも、「それが格差じゃなくてそれが強みと捉えようよ」っていう、ちょっと強引な考え方。なので、地域格差に対して何かできることはないか、と考えるげんちゃんのアプローチは優しいなって思います。


~ 錯覚を抱かせるのは「環境」
環境を整えることで、見えてくる自分がある ~

げんた それは僕が環境に流されやすいからで (笑) それから、「格差を強みにして活かそう」と思っても、具体的な比較対象が無くては、何が「格差」か分からないと思うからかな。自分が置かれている立場と、対照的な立場を比べることができない状況では、客観的に自分の立場を見ることができず、何を指して「格差」というのか分からない。何が格差か分からくては、そこへのアプローチを考えるのも難しいと思うんですよね。

 自分を客観視することが難しいと感じるのは、本人の努力不足とかでは全くなくて、高校在学中に他の地域の人と話す機会があるかとか、大学生と話したことがあるかとか、周囲の環境によるものだと思う。そういった意味では地域みらい留学で現地にどっぷりつかるようなイメージがあるけど、逆に外と繋がることも大事なのかもしれないと思います。

 僕が高校在学中に「あってよかった」、もしくは「あったらよかった」と思う外との繋がりは  ① 他校の同世代との繋がり ② 大学生など数年上の先輩との繋がり。それらの繋がりが生まれたら、自分を客観的に捉えなおすことができる気がする。でも高校生だけだとそういった繋がりは作りにくいと思うから、その繋がりを作ることが僕たちの役割だと思っています。

 例えば僕個人の話をすると、僕はずっと1人で勉強ができなくて。「人はどういう時に勉強をしないのか、というところに関心をもった」って、言ったら聞こえはいいかもしれないけど、僕は「なんで自分はモチベーションを保てないんだろう」って、すごい悩んで苦労してきたんですよね。でもそれが、わりと環境の影響も大きいのだということに気がついて。部活でこなしているランニングやトレーニングも、一人だと三日坊主になってしまうように、周囲に仲間がいないと続けるのは難しい。だからこそ、お互いに刺激しあえる仲間をつくったり、自分を奮い立たせてモチベーションを高く維持できる環境をつくるってすごく大切なことだと思うんです。

 だから最近は大学の勉強でも、勉強自体を頑張るっていうよりは、勉強を教えてもらえる友だちをつくるとか、 場作りに徹底しています。例えば、試験の対策を割り当てたり、リマインドを送ったり。どうしても、高校生個人でできることは限られていると思うし、高校生は僕らのような大学生よりも周りの環境から受ける影響が大きいと思うんですよね。それは、実際に僕も高校生という時期を経たから感じることです。そういった経験から、僕ら大学生が高校生に関わることで、「彼らの環境の一部になれないだろうか」と考えるようになり、高校生、個々人へのアプローチよりも、彼らを取り巻く環境にアプローチしたいな、と思うようになりました。


# 3 「錯覚によって生じたハードルの下げ方」

ーー 錯覚が生じるのは、個によるものなのか、環境によるものなのか。とても興味深い観点です。錯覚を抱かせる要因をどこに置くかで、錯覚の正し方も変わってくるのですね。では、「何も経験してきていない」という錯覚が、「自分は大した人間ではない」「自分にはできない」という心のハードルとなってしまったとき、どうしたらそのハードルを下げることができるのでしょうか?

~ やりたいことを、やればいい。
「自分の心が向く方向」に素直になって、ハードルを下げる ~

ひなた なんかちょっと僕とげんちゃんの違いが見えてきた気がします。げんちゃんみたいに「環境をどう整えるか」というアプローチが肌に合う人がいるとすると、僕は「どんな環境だろうと、その勉強をした先にやりたいことがあったら、やるだろう」というタイプ。

 やらないんだったら、多分そんなにやりたくないことだから、やらなくていいんじゃない?でも、どんな環境だろうと、本当にやりたいんだったらやるんじゃない?みたいな。それで、「これを学んだ先には何をやりたいの?」と問いなおす。物理的な環境じゃなくて、モチベーション、心理的な環境をどう整えるか。自分にどんな問いを投げかけるのか、というアプローチの仕方。

 だって、本当に好きだったらやるでしょう。自然に行動を起こせることが自分が本当にやりたいこと。それが自然にできないということは、まだ本当にやりたいことに出会ってないんじゃないかな、と僕は思います。


~ まずは、スタートラインに立つこと。
  「自分も目指せるんだ」と思うことで、ハードルを下げる ~

げんた いい意味で、ひなたは自分が「できる」って思えるハードルがすごい低いんだと思う。僕が進路選択において1番大変だったことは、志望校を決めること。つまり目指し始めることだった。1番のハードルは自分は目指せるんだと思えること、スタートラインに立つこと、なのかなって。

 志望校を決めるということに限らなくても、例えば大学の教授に連絡をするとか。僕は大学の教授に連絡なんて恐れ多すぎる!みたいに感じちゃっていて、「まず、やってみよう」と思うのに、高いハードルを感じてしまっていたんですね。

 でも、地域みらい留学を通して、「できる」「やってみよう」と思うことへのハードルが下がっていきました。まちの人との関わりの中で、自分にはできないと思うようなことでも、当たり前だけど、それをやってる人もいるんだなとか、その人も悩んでいるんだなと気づけたことが、「まずはやってみよう」と思うことへのハードルを低くしてくれたのだと思います。

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地域みらい留学1dayサマーキャンプ (2019) @東京
地域みらい留学をしている高校生に
留学先での自身の経験や進路選択についての話をした


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キャンプの最後には、高校生と一緒に
「こんな機会があったらいいな!」
「こんなプロジェクトがやりたい!」
とアイデアを出し合った


# 4 「これから」

ーー「自分は何も経験してきていない」という錯覚を正し、できると思える範囲を広げることで、高校生の可能性を広げたい、と共通の想いがきっかけとなり始まった「Connecting the dots PJ」。今回の対談で、お2人の錯覚へアプローチに違いがあることがあるということが分かりました。それを踏まえて、これからどのように活動を展開させていきたいと思いますか?

~ 違いに触れて、自分を知る ~

ひなた 僕とげんちゃんの錯覚へのアプローチ、どっちが肌に合うかは人それぞれ。2パターンに分けるのも強引ですが、今の段階では2パターンに分けることができると思うので、そこでできることをしていきたいと思います。

 例えば、ZOOMでブレークアウトルームつくって、それぞれのルームに僕とげんちゃんがいて、肌の合う方とこれから話していってもらえればいいな、と。あえて僕とげんちゃんの違いを言語化することなく、僕にもげんちゃんにも触れてもらう。そして、この人にこれから聞いていこう、と自分で判断してもらう。そんな感じで進めていけたらいいと思います。こちらからの一方的な発信ではなく、双方でコミュニケーションをとれるような場をつくることに意味があると思っています。

 「人それぞれ違う、だから多様をこちらが提供する」というよりは「多様に気づいてもらえればいい」と思っています。僕と1対1で話した時に、「この人が言ってること意味分からない」とか、「この人と私は違う考えを持っている」ということに気づいてもらえればいい。考えが違う人と向き合ってこそ、自分の考えには気づけると思うんです。こちらが多様な受け皿を用意しなくても、受け皿は僕とげんちゃん、2つでもいい。でも、それぞれの眼鏡を通して見た自分が見える、ということに価値がある、と僕は思っています。


~ 共通点を知って、自分を広げる ~

げんた 似てるけどちょっと違う、8割近いみたいな解答になっちゃうんですけど。多様の中でも同じような志をもってたりとか、関心をもってる人と出会えるのも重要なのかな、と感じています。「他の地域でも、同じような考えをもってる人がいるんだ」みたいに。

 進路でも、東京と自分の町みたいな二項対立で考えがちだけど、グラデーションはあるはず。僕は高校の時から高校外のコミュニティと関わることが多くて、そこで出会った人に相談したり、情報交換をしたりしながら進路選択をしていったという経験があります。そういうつながりがなかったら、自分に見える範囲から選ぶしかないので、高校生が外の世界とつながる機会はとても大切だと思います。 

 そうして広がったつながりから、一緒にやっていこうっていう雰囲気ができたらいいな、と。ひなたの言う多様に出会って自己を取り戻す、ということもすごく大事なこと。そこから、さらに、一緒に考えていこう、一緒にやっていこうっていう雰囲気が生まれていくといいな、と思っています。

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サマーキャンプに参加した高校生のみんなと
地域みらい留学生の可能性をもっと広げるために、
卒業生2人の挑戦はこれからも続きます!


~ おわりに ~

「自分は何も経験してきていない」という錯覚は、自分の可能性に蓋をしてしまう。前に進もうと1歩踏み出そうとした足がすくんでしまうとき、どうするか。

「錯覚を抱かせるのは自分。物は考えよう。捉え方次第でどちらにも転ぶ。それなら、与えられた環境をラッキーだと思って、人との違いを強みにすればいい。」ひなたさんは、どこまでも自分の気持ちに素直に、純粋に好きと思えることを追求する。

「錯覚を抱かせるのは環境。自分が足りないと落ち込むことはない。それなら、与えられた環境で自分が心地よく過ごせるように、環境を整えればいい。」げんたさんは、心を外に向けることで、自分でもできるんだと思えることを増やしていく。

2人のアプローチの仕方は、「個」と「和」の関係に似ている。
「個」をとことん尖らせるひなたさんの方法も、
「和」から吸収して広がっていくげんたさんの方法も、
究極的には、どちらも「自分との対話の方法」であり、その先には「本当に自分がやりたいこと」がある。

全国の地域みらい留学校で奮闘する高校生たちが、「心が動くこと」を純粋に追い求められるように。2人の卒業生の挑戦はこれからも続いていく。

後編は、
何が僕らを僕らにしたのか。僕らの地域みらい留学ストーリー。
2人の原点となった地域みらい留学での経験と学びにスポットライトを当て、彼らのスト―リーを伝えていきます。


記事:もっと地域みらい留学編集部 かんな


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